10  お見舞い

  
 姉の入院は長びくらしいから、いっぺんにじゃなく、
 ひとりずつお見舞いに行こう!と提案すると、
 めずらしいことに、真っ先に次女が、名乗りを上げました。
 次女は、受験モードに入ると来年まで行けなくなるから、と
 22日に高2の終業式を終えたあと、そのまま制服で大阪に行きました。

 次女が23日の夜に戻ったので、様子を聞くと、
 思っていたよりずっと悪い状態で、愕然としました。
 すでに起き上がる体力はなく、昨日から紙おむつをしている、ということでした。
 「もう羞恥心なくなったわ〜」と言っていた、とのことでした。
 食事が運ばれてきても、手を付けなかった、とのことでした。
 次女は「あんな陰気な病院にいたら、治る病気も治らなくなる。」
 と、嘆きました。
 しかも次女は、せっかく行ったのに、1時間くらいで帰ってきたようです。
 「だってそれ以上いたら、おばちゃん、しんどそうだったから。」

 それを聞いて、何が起こっているのか、頭の整理がつきませんでした。
 おむつ、ってどういうこと??
 さすがに寝付けず、夜中も眼が冴えて、うまく眠れませんでした。
 不安のまま、24日の仕事を終え、神戸に向かいました。

 実はこの24日、主治医から家族に話がありました。
 母と私が同席する予定でしたが、私も間に合わないし、
 義兄と長男と長女が来たので、母は直前になって、行きませんでした。
 最近知ったことですが、この時、最後の宣告を下されたそうです。

 それを伝えてもらえず、母は恨んでいました。
 「ほな、また明日来るわな」と言ったのが母の最後の言葉でした。
 私達は、あと半年ぐらいは生きる、と思っていましたから。

 でも、正解はどうだったのでしょう?
 私達がそれを知っていたら、どんな会話ができたでしょうか?

 私達は、何も知らないで、良かったのかもしれません。 

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