終章

 「本当に行ってしまうのか?」
 「ええ、探している男はここにはいないみたいだからね」
 オルフェウスの事件から一週間が過ぎ、シャルルはリブロフを出ることにしていた。街の正門で、いつもより厚手のローブにブーツ姿のシャルルは、アルフレッドと別れの言葉を交わしていた。
 「その___P.Jという男だが___」
 アルフレッドはシャルルの顔色を気にしながら、少し口ごもって言った。
 「いや、ランディを責めないでくれ。彼が私を納得させるために仕方なく話したことなんだ」
 「まあいいから、続けて」
 シャルルの目が座っているのがどうにも気になるアルフレッド。
 「P.Jという男に直接関わるかは分からないが、東方の自治都市メガウィで急激に勢力を伸ばしている麻薬の組織があるそうだ。首謀者はジァダと呼ばれる人物。参考にしておいてくれ」
 「ありがとう、あたってみるわ」
 アルフレッドに礼を言うのもなんだか自然になっていた。お互い、今となっては何故あれほど啀み合っていたのかも良く分からない。
 「その___なんだ、また機会があったらリブロフにも帰ってきてくれ。その時のために俺もできる限りP.Jの情報を集めておくよ」
 「その話をまた取調室で聞くのよね」
 そう言って二人は笑いあった。
 「シャルルさぁん!」
 遠くの方から声高に、ランディが彼女の名を呼ぶ。彼は大きな荷物に押しつぶされそうになりながら、こちらに向かって懸命に歩いてきた。
 「相変わらず酷使してるなぁ。このぶんじゃ、行った先でも魔女扱いだぞ」
 「いいわよ別に。」
 「うわぁ!」
 あまりにもたもたしていたランディが、後ろから来た馬車にひかれそうになっていた。

 雲一つない晴天で、門出には最高だが旅をするには少し暑いくらいの陽気。街道筋を東へ進んだ所にある、少し小高い丘の上からはリブロフが一望できた。
 「シャルルさぁん、とりあえずどこに行くんですか?」
 リブロフの全景を眺めながら、ランディが尋ねた。
 「東方の自治都市メガウィよ」
 「メガウィ!?もの凄く遠いじゃないですかあ!」
 「ああもうっ!遠かろうと関係ない!」
 シャルルは鼻息を荒くして、岩が積み重なってより一層高くなっている場所へと昇っていった。
 「今まであたしはあいつに追いつめられてきた___でも今度はあたしが追いつめる番だ!」
 強い決意、大きな声で空に向かって叫ぶと、とシャルルは身の引き締まる思いだった。
 「さあ行くわよ!ランディ!」
 「待ってくださいよ〜」
 いざ出発!目指すは東へ!
 そこにはきっと、新たなる光と影が待っている。


(完)


(C)丸太坊(2000執筆、2005加筆修正)




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