プロローグ
幾千年も昔のこと、一人の男が「力の食いかた」を知った。
その時代、まだ神と呼ばれる存在が世界に点在し、様々な事象を司っていた。
男は神に抗う力を持たなかった。
神は男を罰し、男は世界の隅へと蟄居する。
男は歪んだ劣情を膨らませ、究極の悪魔となる。
力の食いかたを知りさえすれば、あとはあっという間のことだった。
世界に異変が起こった。
神々が次々とその姿を消した。
男に食われていった。
神の力をその身に蓄え続け、男は変わっていった。
無敵になった。
代わりに、男は理性を失っていった。
衝動の根元となった歪んだ劣情のままに、男は力を食い、世界を破滅へと導いていく。
立ちはだかったのは、生き残った神。
若き竜の帝王は、男の無敵を認め、滅することは諦めた。
いくつもの力が合わさって無敵となったのであれば、バラバラにすることもできる。
それが竜の帝王の秘策だった。
策は実り、力は別れ、いずこかへ封印された。
力の核となった男は音もなく息絶え、力だけが残った。
その行方を知るものも、竜の帝王だけになった。
しかし力の名は歴史に刻まれ、人の邪心が生み出す悲劇の大きさを知らしめる戒めとなった。
力の名は「G」。
神々の偉大なる魂が結集した力そのものに、敬意を込めてそう呼ばれた。
長い時を経て、Gは忘れ去られようとしていた。
しかし浅黒の神官は、竜の帝王を知り、Gを知る唯一の邪心。
己が仕える黒犬の邪神が「無敵」になることを望んだ彼は、Gを彼に教えた。
そして、紫の竜の戦いは新たなる局面へと進む。
「G」を巡って。
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