第1章 恋路の行く末
厳寒のケルベロス国にありながら、年間を通じても雪の降ることがない場所。それがフィツマナック島である。ケルベロス国最南端の領地であり、海風が運ぶ暖かい気候が特徴的。島の面積は半日あれば一周できるほどで、島民のほとんどが農業に従事している。
今この島に、一人の男が降り立とうとしていた。暖かな気候を目当てに、ケルベロスからの観光客も多いフィツマナック。そんな中、汚れた身なりに、無精髭、腰には剣をぶら下げた百鬼の存在は異様だった。フィツマナックには到底縁のなさそうな人種である。
「ここにフュミレイが___」
罪人に出会うのは簡単でないと彼は考えていた。しかしどうにもここは、流刑先という割には長閑なところだ。この景色に安心した百鬼は、会える可能性を信じた自分の選択を喜んだ。
一方___
「___」
長髪を風に靡かせ、甲板で遠くの海を見つめながら、ソアラもフィツマナックへと海路を急いだ。紫色の髪はどこにいても他人の気を引く。特に今回は、ラバンナの舞台を見た人がちらほらと船に乗り込んでおり、声を掛けられることも多かった。この色であることへの好感の言葉が数多く聞かれ、それは新鮮で嬉しいことだった。ラバンナと言えば、今の彼女の服装も、餞別代わりに貰ったワンピース。ミエスク講演で纏った衣装だ。お腹のことを気にして、ゆったりとした服を着ようと考えた結果である。
「あいつめ___」
自分の腹部を一瞥し、ソアラは伏し目がちになってまた海を見た。
(もしフィツマナックで温々としてたら、ただじゃおかないんだから。)
戦闘は封印したはずのソアラだが、知らず知らずに拳を握って指を鳴らしていた。
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