エピローグ
「空が晴れて___いく!」
フローラは空を見上げ、感激に噎ぶような声を上げた。
「ソアラが勝った___!?」
ライも笑顔を見せるがまだ事実は分からない。
「私、見てくる!」
ミキャックは満身創痍の身体に鞭打って翼を広げた。アヌビスの邪輝が余韻でしかなくなったためか、彼女は希望に溢れた顔で山頂へと飛びたった。
山頂が近づくほどに胸が高鳴っていたミキャックだったが、岩盤で横たわるソアラたちの姿を見るとすぐに真顔になった。
「ソアラ!」
ミキャックは猛烈なスピードでソアラに近づいていった。
「何でこの子たちがここに!?」
彼女はリュカとルディーがソアラの隣に寝ていることにとまどった。アヌビスがいないことを確認して、彼女はソアラの前へとしゃがみ込む。
「ソアラ、ソアラ!」
「ん___?」
ソアラが思ったより簡単に目を覚ましたのでミキャックは安心した。
「ソアラ___!」
「ああ___ミキャック、無事だったんだ___良かった。」
「なに言ってんのさ!あたしの事なんてどうでもいいの!」
ミキャックはソアラの上に折り重なるように抱きついた。
「アヌビス、アヌビスを倒したんでしょ!?」
「うん___」
ソアラは優しい笑顔で頷いた。二人の額がぶつかる。
「やったじゃないソアラ!やったやった!あなたはあのアヌビスを倒したのよ!」
「うん___うん___!」
ソアラの目尻から涙がこぼれ落ちる。ミキャックも泣くことを憚らなかった。
ミキャックに背負われて、先にリュカとルディーが、遅れてソアラが山を下りる。
「安心してソアラ、二人とも眠っているだけで命に別状はないわ。」
リュカとルディーの体に傷はなく、体力も満たされていた。治療をしようとしたフローラが手を引いて微笑む。ソアラはもちろん笑顔で応えたが、すぐに顔色を変えてサザビーの元へ。
「サザビー、スレイは___」
「なにも言うな、俺も感じてた。それよりさっさとあいつにキスでもしてやんな。」
サザビーに悲しみを告げたソアラだが、彼に促されて百鬼と目を合わせる。
百鬼はなにも言わずにその手を広げ、ソアラはこらえきれずに顔をくしゃくしゃにしておおらかな胸へと飛び込んだ。
言葉はいらない。
二人はただ抱き合って、互いの喜びを分かち合った。
栄光の城___
ミキャックの髪飾りの力で皆は城へと凱旋した。
幻影の竜神帝に勝利の報告。
帝は讃辞を述べるが、すぐに帰らなかったものたちを哀しむ言葉。
レミウィスとスレイだけではない。この戦いに携わり、命を落とした多くのものたちに、帝もソアラも皆も、城にいた天族全員も、長い黙祷を捧げた。
「ソアラ___よくぞアヌビスを倒した。中でもおまえの働きには感謝の言葉もない。」 「滅相もございません。」
「そこでだ、おまえのかねてからの望みを叶えようと思う。」
その帝の言葉がなにを意味するか、その場にいた全員が分かっていた。
「おまえの真実を教えよう___」
「待ってください。」
ソアラは彼女が最も知りたがっていたことを述べようとする帝を止めた。
「帝は私になにを教えてくださるのですか?」
しばしの間。
「本名、両親の名、おまえの素性、中庸界への経緯___」
再び沈黙が訪れる。
「知りたくはないか?」
ソアラは僅かにうつむいて暫く逡巡してから顔を上げた。
「知りたくないといえば嘘になるかもしれません。でも私はソアラ・バイオレット、もちろん今はソアラ・ホープですが、これまでもこれからもソアラ・バイオレットとして生きるつもりです。純粋ではないからできることもあるって良く分かりましたし、それにソアラ・バイオレットを愛してくれる人にもたくさん出会いました。だから___今の私に真実なんて必要ないって___そう思えるんです。」
ソアラは竜神帝にこれ以上ない笑みを見せた。
「今を生きる、今の私の姿、私の人生、私の友、それこそが真実なんです___」
幻影の向こうで竜神帝がどんな顔をしていたかは分からない。しかし彼の答えは実に穏やかだった。
「良かろう。確かにもはやソアラ・バイオレットの名は歴史に刻まれた。それに、その名の方がおまえにはよく似合っているよ。」
「はいっ!」
ソアラは満面の笑みで元気良く返事をした。
「さあっ!これから祝賀パーティーだよ!料理の用意ができたからみんな食堂に行こう!」
ミキャックの明るい声に誘われて、雰囲気が一気ににぎやかになる。
「やったー!俺っちお腹空いてたんっすよ!」
「おまえはずっとここにいただろうが。」
リンガーの冗談に笑いながら皆は食堂へと向かう。ソアラも帝に深く一礼してから子供たちと一緒に皆を追った。
「ソアラ!たまには酒につきあえ!」
「え〜!?どうなっても知らないよ!」
賑やかな声が消えていく。一人残された幻影の帝、微笑んだように見えたのは気のせいだろうか。
「やれやれ仕事が増えてしまったな___」
ただ、天界の彼は確かに微笑んでいた。その手には一冊の本と、羽ペンを握っていた。
「シェリル・ヴァン・ラウティをソアラ・バイオレットに書き換えねば___」
そして彼は、徐に本を開いた。
G −the Great of soul−
「第2部 キャスト」
ソアラ・バイオレット(ソアラ・ホープ)
ニック・ホープ(百鬼)
ライデルアベリア・フレイザー(ライ)
フローラ・ハイラルド
サザビー・シルバ
棕櫚
バルバロッサ(風間)
グレイバット・バッティ(バット)
リンゲルダーレ・ネルリンガー(リンガー)
レミウィス・リドン
ルートウィック・ド・ダ(ナババ)
スレイ・ヴィンスキー
キュイ(キュクィ)
リュカ・ホープ
ルディー・ホープ
アモン・ダグ
フィラ・ミゲル(ゼルナス)
ニーサ・フレイザー
アラン・ハイラルド
マーガレット・ハイラルド
サンドラ・ハイラルド
アウラール・サー・レイニー
ランス・ベルグメニュー
イェン・クルーニー(アデリン・ハートウィン)
ファボット・ハートウィン
ネイノス
アミナ
榊
竜神帝(ジェイローグ)
ミキャック・レネ・ウィスターナス
ギュント
フュミレイ・リドン
ダギュール
ブレン
メリウステス
グルー
ライディア
フォン(洪)
ガルジャ
ジャルコ
ラング
エスペランザ
フェルナンド
アイルツ
ネスカ
レストルップ
ベティス
マジャーノ
ディック・ゼルセーナ
ケツァール(血の器)
超龍神
ジュライナギア
アヌビス
G
「___
「___
「___
「___ふうっ。
「ご無事でしたか。
「いやぁ、危なかったな。
「油断召されましたな。
「いや、そういうわけでもないさ。あれくらいの攻撃を食らっておかないと俺を倒したとは思わないだろう?
「確かに。
「まあ時を止めれば何の問題もなかったけどな。
「相変わらず芝居がお好きですな。
「レミウィスが素晴らしい働きをしてくれた。あいつの博打のおかげで、さも自然に能力を失った『ふり』ができた。
「しかし血の器を破壊されてしまいました。
「気にするな。俺はそんなに好きな道具じゃない。
「はぁ___
「それよりもまずは黄泉だ。竜神帝が俺たちの気配に気づくか、ソアラがおまえと戦わなかったことに気づく前に、黄泉に行くぞ。
「左様ですな。
「行くぞ、ダ・ギュール。楽しみはまだまだたくさんある。
「お供いたします___アヌビス様。
第2部 邪神と竜 −完−
(C)丸太坊 (2002執筆、2005加筆)